ヒエラルキーと支配構造
「これからは隠密行動を取ってもらう。」
48階プロジェクトフロアにて招集された30名に対してOは言った。3月19日のことである。
2月の逃亡、そして劇的な復帰に伴い、今後は幹部を選出し、少数のみで某SNSを運営していくのだと事前に告知がされていた。
配属先希望のアンケートも提出済みで、参政メンバーは幹部がどのように、いつ選出されるのかあてもなくひたすら待たされていた。
そして3月19日、48階への招待の通知が届き、唐突にSS/S+ゲリラ就任式が始まった。
このことは未だに平民と呼ばれる人々には知らされないままだ。
48階はA~Fのカテゴリーに分かれており、各カテゴリーに侍が1名その部下が5名前後配備された。就任式では侍各々から挨拶があり、次に48階の説明をあらかたおえた後にOは冒頭の台詞をつぶやいた。
さらに「自分が所属する部署も他の者に教えてはならない。」
「メンバーは互いのチームを知らない。」と付け加えた。
分断して支配するとはよく言ったもので、欧米列強国が植民地支配を行う際に使った常套手段だ。
Oは歴史を学ぶ重要性を理解していないので、そのことを知っていたとは思えない。
しかし横のつながりを断つことによってその手法を上手く使い、
ITという専門性の高い分野の元専門家であるということを盾にとり、人々の様々な疑問を煙に巻いてゆくのである。
カタカナ英語のビジネス用語を駆使し、常にマウンティングしつつ自分の優位性を高めていくのが彼のやり方である。
選出された者は優越感を覚えたことだろう。自分は平民ではなく選ばれた人間なのだと。さらに某SNSの運営に直接携わることができるというプレミア感をうまく利用して、対価を支払うことなく人を使役することに成功している。
そして某SNSの敵というH氏の存在。団結させるために共通の敵を作り上げるという手法も今更な話だろう。プロジェクトが失敗した時、敵の妨害があったためと言い訳に利用するのにも有効だ。
アンチによるslack内のスクショの漏洩が頻繁に行われていたため、お互いがそれぞれ疑心暗鬼となり、組織内部での隠匿性はさらに高まっていった。
かくして、Oの支配を強固にするための好条件が揃った。
これはOの意図して行った計画なのだろうか。裏で協力した人間がいたのだろうか。
息を吸うように嘘をつく男に問うてみたところで、事実は闇のままだ。
少なくとも逃亡中どのようにして自分の支配力を高めるか、じっくりと策を練ったはずである。
しかし悲しいかな教養なき男は、肝心な、支配者は被支配者を生かさず殺さず摂取し続けるということを実行できず小さな王国内の構成員はどんどん削除されている。
まともな理論をぶつけてくる相手には自分の優位性を保つことができないため、自分の支配が行き届く小さな世界の中において、なかったことにするしか術はないのである。
現実社会からは既に抹消されて等しくネット空間の極めてコアな領域でしか行き場のない彼はこれからどんな人生を送るのだろうか。暗雲立ち込めた未来が待っているのは間違いない。